おしごとあれやこれや

またしても、光ケーブルを大五郎にブチ抜かれ、復旧に苦労しておりました……。
方々へのご迷惑をおかけしました〜、すいません。


昨日は、黒瀬珂瀾(くろせ・からん)さんの歌集『空庭』の批評会のパネルとして出演してまいりました。
なぜ、歌壇に。
現代詩人(一応)の私が〜(汗)。
と思ったのですが。
まあ、勉強になりそうだし、と。

空庭

空庭

この歌集。
面白いです〜!
いろいろな意味で、意欲作でして。
ぐだぐだ説明するよりも、作品をお読みいただけば一番いいので、下記のような感じなんですが。
たとえば(カッコ内はルビ)。


母語圏外言語状態(エクソフォニー) この美しき響きには強風に立つ銀河が見える


前線といふ線見えぬ払暁の不気味な泡(ブギーポップ)は笑はないのか


人は他人の為に生き得ず草市の西尾維新に恩寵はあれ


前衛と言はれて探す前衛のランバ・ラル隊全滅あはれ


太正十六年一月真宮さくらは愛に帝都衛りき



太陽の塔、あるいはドルアーガ」と題した連作では。


でも塔は目の前にある 永遠に広がりてゆく曇り空さへ


日本はアニメ、ゲームとパソコンと、あとの少しが平山郁夫


あの塔が昔も塔であつたこと誰も知らずに石鹸を買ふ



かと思えば、ニューヨークの「グラウンド・ゼロ」を題材にした連作。


おおここに高々と「無」が聳えをりグラウンド・ゼロ風吹くばかり


黄昏(くわうこん)を浴びて世界はグラウンド・ゼロへと進むパレードである


でたらめに次々接合されていく記憶や、今日的なポエジーの拡散状態、それに、メディア形態化された世界の様態と、とりわけ戦争の日常化・日常の戦争化といったモチーフを織り込んでいるな〜と。
アニメやゲーム、ラノベなどの用語も多用されておりまして。
根底には、無臭化された郊外的原風景のデジャヴを感じたのですが。
批評会の前に、黒瀬さんと少しお話をしたところ。
彼は、私より7歳年下ですが、まあロスジェネ後期で、そんでもって大阪の千里ニュータウン育ち。
私は、相模原の国道16号線沿いの郊外育ちなもので、なるほど、そうか〜と。
あと、気になったのは、最後の歌ですね。


一斉に都庁のガラス砕け散れ、つまりその、あれだ、天使の羽根が舞ふイメージで


パネルの永井祐さんが、「つまりその、あれだ」がインチキプロデューサーみたいだと言っていたのが、印象的でした(笑)。たしかに。
行政の象徴、パリのノートルダム寺院を縦に伸ばしたあの権威的な建築が砕けるときも、「視聴率をとれる映像を〜!」という感じでしょうか。
その壊れ方がいいですね。
一方、荻原裕幸さんが、「固有名詞が多すぎる」点、「オタクとインテリを足して二でも割らないような言語空間」で、調べないと分からない言葉が多すぎて、読者を置き去りにしている、と批判していたのですが。
……ええっ!
…………サブカルチャーと言っても、メジャーどころばっかで、そんなにマニアックな作品はでてきてないし、じゃあこれらのゲームとかラノベとかアニメとか全部見覚えがある私ってヲタだったのだろうか、少しばかりヲタっ気があるライトユーザーだと思ってたのに(滝汗)。
と思ったりしたのですが。
フロアのお客さんも、年配の方を中心に、「分からなかった」という意見多数。
でも、「分からなくてもかまわない」という意見も多数。 


印象的だったのは。
この、固有名詞問題。
フロアからの意見で。
「短歌は、枕詞など多くの人たちが共有・共感できる言語の用法が前提にある文芸であるが、黒瀬さんのこの歌集は、あえてそれを否定する書き方」
だと解説してくださったんですね。
あ〜、そう言えば、そうか、と。
現代詩の場合、短歌ほどのお約束はないのですが、現代詩書きのあいだで暗黙のうちにできあがった「詩語」はありまして。
でも、それをあえてぶち壊しても、ここまでの批判はでないんですね。
そもそも、そこまでの語の共有装置としての技法がないので。
だから、自分が馴染みのない固有名詞が作品の中に大量に出てきても、たぶん現代詩人は、歌人ほど違和感は覚えないんじゃないかと。
その辺、詩人と歌人の違いについて、考えさせられました。
ただ。
違和感の醸成は、世界と自己との分裂を表現する手段にもなります。
おそらく、それほど強度をはらむ言語空間を作りたかったのではないか、と。
たんなるブッキッシュな表現とは違うように思いました。
今の世界では、誰もが自分の身体、言葉、感性すらもどこか自分のものではない感覚がまとわりつくので。
それもふくめての「仕掛け」ではないかと思ったのですが。


でも。
意見は真っ二つだったのですが。
言い合うのがまた楽しそうというか。
そんな感じの会でした。
これが、歌壇の「座の文芸」的特質か〜、と思ったり。
あと。
途中から、岡井隆さんがフロアにお越しになったのが目に入り。
わ〜、生岡井隆見ちゃったよ〜、うわ〜うわ〜、すげ〜動いてる〜! と思って脳内大騒ぎだったりと、そんな(どんなだ)会でした。
え〜と。
詩壇のイベントも同じようなことは多々ありますが、フロアのほうが豪華、という……(笑)。


さて〜。
明日発売の『AERA』ですが。
「38歳女のハッピーリスク」というお題で、コラム書いてます〜!
ご興味がある方、どうぞご笑覧ください〜!