ひたちなか海浜鉄道その3

さて、覚書、ひたちなか海浜鉄道紀行つづき。
いきなりここからお読みになった方は、9月3日の日記から読むことをおすすめします。
那珂湊駅で合流した、我らが会長こと佐藤信之先生なんですが。
※佐藤先生のブログ→鉄道と旅と温泉と・・/ウェブリブログ
その日お会いしたときは、ビデオカメラで、バスを撮影していらっしゃいました。
鉄道がご専門なのですが、公共交通機関全般もフィールドにしていらっしゃいます。
「バスはピンク色でもいいんですけどね」
と、会長は唐突に、バスをながめながらおっしゃいました。
「え? 色ですか」
「電車は、ピンク色に塗ると、近隣住民から苦情がくるんですよ」
「はあ」
あ、そういえばそうかも。
バスの色は看過されても、電車というのは景観や公共性が意識されるらしいですね。


それにしても、会長。
いつお会いしても、顔色が青白いのですが、この日はとくにお疲れのようでした。
「8月24日締め切りの原稿が、まだ書けていなくて」
とのことです。
締め切りを過ぎた原稿……。
おそらく、この世でもっとも胸がしめつけられる言葉のように思います。
「この間まで、黒部峡谷の鐘釣温泉にいて、原稿を書いていたんですが」
とのことで。
「いいですねえ、温泉、よかったですか」
「夜になると、人がいなくて」
「え?」
「駅員さんは、帰宅してしまいますし、宿の人は手術でいないとかで」
「へえ……」
「幽霊が……でないかなあ、と思いまして。撮影してみましたが、出ませんでしたねえ」
淡々とおっしゃる、会長。
こう言ってはなんですが、幽霊も同輩と思ってほうっておくのではないでしょうか……。


いったん阿字ヶ浦駅に行こうという話になり。
次の電車を待っていたのですが。
会長は、わが一子大五郎(仮名)の顔を見ておっしゃいました。
「いい眉毛をしていますね。縄文人のようで」
「はあ」
……ほめてくださっているのでしょうか。
………たぶんそうだと思うのですが、反応に困ります。
たしかに大五郎は、津軽人の夫に似て眉毛が太く、誕生当時は野武士のような顔をしていました。
生まれたての頃は、不沈空母を云々言っていたころの中曽根元首相のような感じで、ちょっとびっくりした記憶があります。
むしろ、現在のほうが子どもらしいですね。
まあ、そんなことはともかく。
「この子、電車が好きなんですよ〜」
と言うと、さすがは会長。
すかさずビデオカメラのモニタを開き、秘蔵の電車映像を、次から次へと大五郎に見せてくださいました。
新幹線に、黒部峡谷を走る車窓、車庫内の電車……。
「この子、踏み切りも好きなんですよ」
「踏み切りは、あと40コマくらい送らないと、ないですねえ」
あるんかい!? 
そうツッコミたくなるのを押さえつつ、おおはしゃぎの大五郎と会長を、ながめることしかできませんでした……。
が。
よく見ると。
会長が。
……講義の際にも、まったくの無表情で「あの先生は、本当に人間なんでしょうか」と、おそるおそる学生にたずねられるという、わが会長が。
大五郎に電車映像を見せながら。
……ほ、微笑んで、いらっしゃる!?
…………珍しい…………。


次の電車が来たので。
「ほら、でんちゃ来たね〜」
と大五郎に言うと。
会長は、静かに、しかし力強くおっしゃいました。
「電車じゃなくて、ディーゼルカー
たしかに……気動車でしたね……すいません(汗)。
しかし。
大五郎は。
すっかり、この「でんちゃのおじさん」が気に入ったようで、大喜びです……。


この電車、もとい気動車
たんたんと、田んぼの中をたった一車両で走る姿は、孤高で情趣があります。
殿山駅は、駅構内に花壇があり、色とりどりの花が植えられ、なんだか「銀河鉄道の夜」のようした。
近所の高校生さんが、植えているのだとか。
しかし。
ここの近くにある2つの高校のうち、1つは閉校が決まり。
ここの鉄道の続行は、ますます厳しくなりそうなのだとか。
たしかに、高校生が通学に使わなくなったら、地方鉄道の存在意義はかなり薄れますね……。
この花壇も、やがて消え果るのでしょうか。
地方鉄道からの車窓というのは、失われ行く風景なのかもしれません。
でも。
そんなことはおかまいなく。
短い「きどうちゃ」に、大五郎、おおはしゃぎ……。
靴を脱がせてシートに座らせると、目に映るものを、次々指差します。


そんなこんなで。
きどうちゃは、阿字ヶ浦駅に到着。

……長ッ!
というプラットホームでして。
一車両しかないディーゼルカーが停車すると、長さ感爆発です。
ここは「東洋のナポリ」だそうです……。
残念ながら、私はナポリに行ったことがないので、比較のしようがありません。
昔はサーフィンのメッカだったそうですが、開発で潮の流れが変わり、さびれてしまったのだそうです。
でも、せっかくだし、海くらいながめておきたい……と思ったのですが、風雨が強く、結局、駅近くの寿司屋で、みなさんでお寿司をいただきました。
その間、どんどん台風接近のせいで、風雨が強くなってきます……。
そういえば。
去年、夫が仕事で会長とご一緒で津軽鉄道に行ったときも、台風にあいました。
……会長は、嵐を呼ぶ男なんでしょうか。
そういえば、ご出演の鉄道番組、見ましたよ〜、と会長に言うと。
http://www.mondo21.net/tetsudo_kiroku
*1
「もう、テレビ出演は、すべて断っているんですよ」
とのこと。
以前、福知山線の事故のとき、連日メディアにコメントを求められていた会長ですが。
あれ以来、出演依頼の電話があまりにもかかってきたせいで、電話恐怖症になってしまったのだとか。
この絶妙なキャラの上、なにせ本当に公共交通について、とてつもなくお詳しいので。
鉄道ブームの折、テレビ出演依頼は多いそうなんですが。
ご本人。
たぶん。
……オーストラリアの有袋類並みに、苛酷な環境に弱いのだろうと思います。
「じゃあ、今出ているあの番組は、厳選のうえ出演されたんですね?」
と夫がたずねると、
「いえ。あの番組の出演依頼だけ、メールだったものですから」
と淡々とおっしゃる、会長。
「え。メールだったら、テレビに出るんですか!?」
「…………というか、電話に出ないんですよ」
「………………」
「…………………………」


というわけで。
佐藤先生に、出演依頼をお願いしたいというメディアのみなさま。
わが会長には、メールがいいですよ〜!
ちなみに。
電話は出られない会長ですが。
メールの返事は、異様に早いです〜(笑)。
そんなわけで。
その後の苛酷な台風行脚は、ブログで書くのにしのびないので、覚書はとりあえずこれにて〜!

*1:お笑い芸人さん相手に、会長が鉄道について解説している番組です。本格的な鉄道映像と、会長の淡々とした語りが芸人さんのテンポと静かな不協和音を醸し、ついでにいつ見ても会長の体調が心配になる、そんな番組です